液剤を知る
自動車の高機能化、電子機器の精密化、医療機器の小型軽量化といった技術革新が進む中、それらを支えるマテリアルとして再注目されているのがシリコーンオイル(Silicone Oil)です。高い熱安定性、優れた潤滑性、電気絶縁性を併せ持つこの材料は、製品の信頼性と生産性の両立を実現するキーマテリアルのひとつと言えるでしょう。
シリコーンオイルを低粘度、中粘度、高粘度タイプに分け、それぞれの特性と用途、そして塗布工程における技術課題とソリューションについて、具体的な事例を交えて詳しく解説します。
シリコーンオイル(Silicone Oil)は、ケイ素(Si)と酸素(O)の繰り返し結合で構成されるシロキサン結合(–Si–O–Si–)を主骨格とした液体ポリマーです。主に用いられるのはポリジメチルシロキサン(PDMS)で、これはシリコーン化合物の中でも最も安定性と汎用性に優れたタイプです。 この分子構造は、一般的な炭素骨格の有機オイルと大きく異なり、以下のようなシリコーン特有の性能を実現します:
シリコーンオイルには、分子量や官能基構造の違いによってさまざまな粘度グレードが存在し、その粘度によって流動特性・適用用途が大きく異なります。 一般的な産業用途では、主に以下の2つに分類されます:
さらっとした流動性が特徴で、微細部への浸透性に優れます。主に精密電子部品や医療機器などの摺動部潤滑や薄膜コーティングに適しており、スプレーやディッピングなど、広がりを重視する塗布方式との相性が良好です。
粘度が高いため、膜厚の保持性や滞留性に優れ、圧力や摩擦がかかる部位でも安定した潤滑膜を形成します。自動車内装材(例:座席ウレタン)やゴム製品の離型潤滑・組立工程での滑り性向上などに多く用いられ、塗布には中~高粘度対応の専用装置が求められます。
粘度タイプ | 粘度範囲(参考) | 主な特徴 | 適合塗布方式 | 主な用途例 |
---|---|---|---|---|
低粘度タイプ | おおよそ10~1,000 mPa·s | ・高い流動性と濡れ性 ・微細部への浸透性 ・拡がり性が良好 |
・スプレー ・ディッピング |
電子部品の潤滑、医療機器の薄膜コート、精密部品の保護膜形成 |
中高粘度タイプ | 1,000~10,000 mPa·s 以上 | ・滞留性 ・膜厚保持性が高い ・せん断潤滑に優れる ・粘着・封止用途にも対応 |
・スポット塗布 ・スプレー(高粘度用) ・ラインディスペンス ・ピストンディスペンサー ・加温吐出 |
自動車内装の組立潤滑、ゴム離型、構造部材の滑り性確保、封止材、粘着剤、衝撃吸収材等 |
粘度が低すぎる場合 | 粘度が高すぎる場合 |
---|---|
・液だれ、飛散が発生しやすい ・膜厚コントロールが困難 |
・吐出安定性に課題が出やすい ・塗布圧力・ノズル構造に制約 |
対策:塗布速度・距離の最適化、塗布後の乾燥制御 | 対策:ノズル径の拡大、予熱、真空脱泡等 |
シリコーンオイルの粘度は、塗布方式や用途に応じて「低粘度タイプ」と「中高粘度タイプ」に大別され、それぞれに適した設備・制御が求められます。粘度が低すぎる場合は液だれや飛散のリスクがあり、高すぎる場合は吐出不良や装置制約が発生しやすくなります。作業環境や安全性への配慮も含め、粘度特性に応じた適切な材料・装置選定が不可欠です。
低粘度タイプのシリコーンオイルは、プリンターのスライダーやHDDの可動部、カメラのズーム機構など、摩耗が懸念される精密部品に広く使用されています。また、医療用途では、注射針や内視鏡の潤滑としても活用され、人体との接触安全性を求められる領域でも実績があります。
ただし、粘度が低いことによる課題も存在します。
代表的な課題は以下の通りです:
これらの課題に対応するためには、微量制御と飛散抑制に優れた塗布装置が不可欠です。
シリンジにシリコーンオイルをスプレー
ドアシール・ウィンドウシールのゴム部品への
スプレーコート
歯科用タービン・ハンドピースの可動部へのスプレー
一方、中高粘度のシリコーンオイルは、自動車業界を中心に需要が拡大しています。特に、座席用ウレタンフォームやドアシールなどの樹脂部品では、離型性・組立性・音鳴り防止といった性能が求められるため、ある程度の膜厚と接着性を両立する塗布が必要です。 このタイプのオイルでは、以下のような課題が発生します:
事例概要: 従来の低圧エアスプレーでは、潤滑性にムラが出やすく、組立工程での異音や摺動不良の要因となっていました。また、作業者の負荷や液剤の無駄も問題でした。 SV01Sを導入し、中高粘度のシリコーンオイルを非接触スプレーすることで、以下の効果が得られました。
シリコーンオイルは、その粘度レンジの広さと化学的・物理的な安定性の高さから、多様な製造現場において極めて重要な機能材料の一つとなっています。 • 中低粘度タイプは、精密電子機器や医療機器の潤滑・絶縁において不可欠であり、 • 中高粘度タイプは、自動車内装・ゴム部品の成形・組立など、より過酷な環境下での潤滑や離型性の確保に役立っています。 潤滑性・絶縁性・耐熱性・化学安定性 といった相反しがちな性能を1つの材料で満たせる点が、他のオイル系材料にはない大きな強みです。
意外かもしれませんが、シリコーンオイルは工業用途だけでなく、身近な日常製品にも使われています。
このように、用途は製造業にとどまらず、私たちの生活のさまざまな場面で活躍しているのです。
シリコーンオイルの塗布工程においては、材料の粘度によって流動性・拡がり性・滞留性が大きく異なり、目的に応じた最適な塗布方式とディスペンス機構の選定が製品性能の安定性に直結します。
サンエイテックでは、用途と粘度特性に応じて、微細・安定・高速な塗布を可能にする最適な塗布バルブソリューションをご提供しています。ここでは粘度別に推奨する製品をご紹介します。
低粘度材料に最適化されたSV91スプレーバルブとSV59MS超微量塗布バルブは、低圧・低流量での安定スプレーが可能です。SV91は微粒霧化により均一な広がりを実現し、SV59MSはスポット的に極少量を確実に塗布するため、狭所や局部への点滴にも有効です。 いずれも非接触式で、製品表面を傷つけることなく、精密かつクリーンな塗布が可能になります。
SAN-EI TECHのSV01Sスプレーバルブは、最大30,000 mPa·s 程度の粘度にも対応しつつ、霧化せずに均一な塗布膜を形成できます。特徴は以下の通りです:
本記事を通じて、シリコーンオイルの特性や塗布技術のイメージを少しでも深めていただけたなら幸いです。
より具体的な製品情報、導入事例、塗布装置とのマッチングに関する資料は、以下より無料でダウンロードいただけます。