

液剤を知る
近年、電子機器はますます小型化・高密度実装化が進んでいます。部品間のクリアランスは極めて狭くなり、回路の高集積化が進むことで、わずかな湿気や汚染でも絶縁不良や短絡を引き起こすリスクが高まっています。
さらに、製品の使用環境も大きく変化しています。車載機器、屋外設置機器、産業装置などを中心に、高温多湿環境下での使用が一般化しており、従来以上に信頼性の高い防湿技術が不可欠となっています。単なる表面保護ではなく、長期耐久性・環境耐性を備えた「質の高い防湿技術」が求められています。
加えて、近年はVOC排出規制への対応や材料粘度の多様化も進んでいます。低VOC化材料や高機能材料の採用が増える一方で、それぞれの液性に適した塗布方法を選定しなければ、膜厚ムラや未硬化、密着不良といった品質課題が発生します。
液剤特性に合わせた最適な塗布方法の選定が、これまで以上に重要になっているのです。
このような背景から、防湿コーティングは単なる材料選定だけでなく、「材料 × 塗布技術 × 使用環境」の総合設計が不可欠な工程へと進化しています。
身の回りに存在する車載機器や電子機器などの製品には、基板が搭載されています。車載機器や電子機器、医療機器などは、湿気や腐食、酸化などが原因で短絡(ショート)や断線、電流漏れが発生し、故障を招くことがあります。
湿気・塵やホコリ・腐食などの外的要因から製品の状態を保護するため、電子部品の表面に防湿絶縁材をうすく・均⼀に被覆することを基板防湿コーティングと言います。
そのコーティング作業に使用される液剤が、防湿コーティング剤です。
高密度実装基板では、以下のような環境起因の劣化が発生します。
上記のような劣化要因を物理的・化学的に遮断し、基板の絶縁性・耐久性・長期信頼性を確保するために、防湿コーティングは不可欠です。
防湿コーティングを施すことで、
特に高温多湿環境や振動環境下で使用される製品では、防湿コーティングの有無が製品寿命に直結すると言っても過言ではありません。
防湿コーティング剤は、主成分の樹脂種および硬化方式の違いにより、いくつかの材料タイプに分類されます。 各材料は「硬化機構」「柔軟性」「耐熱性」「膜形成性」「量産適性」などに明確な違いがあり、使用環境や製品要求仕様に応じた適切な選定が重要です。
空気中の水分と反応し架橋構造を形成することで硬化します。ゴム弾性を有し、柔軟性と耐熱性に優れる点が最大の特長です。
短時間で硬化し、透明性・作業性に優れます。比較的低コストで量産適性が高い材料です。
分子間結合が強固で、高硬度・高接着性を有します。厚膜形成に適しています。
シリコーンとエポキシの中間的な特性を持ち、柔軟性と耐久性のバランスに優れます。
表面エネルギーが低く、優れた撥水・撥油性を有します。
| 材料タイプ | 本硬化方法 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| シリコーン系 | 湿気硬化 | 柔軟性・耐熱性・ クラック抑制 |
車載電子機器 |
| アクリル系 | UV硬化 化学反応 |
透明性良好・ 高い汎用性。 |
コンシューマー製品 通信モジュール |
| エポキシ系 | 熱硬化 2液反応 |
高硬度・高耐湿・ 厚膜形成性。 |
電源周辺 産業機器 |
| ポリウレタン系 | 湿気硬化 2液反応 |
柔軟性・耐久性 | 車載基板 屋外設置機器 |
| フッ素系 | 熱硬化 | 撥水性・ トップコート |
医療機器 航空・宇宙 など |
| ポリオレフィン系 | 熱硬化 | 撥水性・ トップコート |
小型電子機器 家電 |
実際の塗布工程では、材料特性だけでなく、以下のような工程適性も重要な評価項目となります。
材料ごとの傾向は以下の通りです。
| 材料タイプ | 塗布安定性 | 膜厚制御性 | 仮乾燥 スピード |
クラック 剥がれ耐性 |
|---|---|---|---|---|
| シリコーン系 | ◎ | ◯ | △ | ◎ |
| アクリル系 | ◎ | ◎ | ◎ | ◯ |
| エポキシ系 | ◯ | ◯ | △ | ◎ |
| ポリウレタン系 | ◯ | ◯ | △ | ◎ |
| フッ素系 | ◯ | △ | ◎ | △ |
| ポリオレフィン系 | ◎ | ◯ | ◯ | △ |
車載電子基板は、高温環境・振動・温度サイクルといった厳しいストレスを受けます。特にエンジンルーム周辺では、熱膨張差による応力が発生しやすく、硬質材料ではクラックや剥離のリスクが高まります。
そのため、高い柔軟性と耐熱性を兼ね備えたシリコーン系防湿コーティングが適しています。基板や部品の膨張収縮に追従し、長期信頼性を確保します。
産業機器は、振動・粉塵・油分・高湿環境など、過酷な条件下で使用されるケースが多く、保護性能の高さが求められます。また、電源部など高電圧領域では厚膜による絶縁強化が重要となります。 そのため、高硬度・高耐湿性を有し、厚膜形成が可能なエポキシ系コーティングが適しています。強固な保護層を形成し、長期安定稼働を支えます。
通信機器では、結露や湿気による短絡防止が重要である一方、大量生産に対応するための作業効率も求められます。 そのため、硬化速度が速く、膜厚制御が容易なアクリル系コーティングが広く採用されています。量産ラインとの相性が良く、コストバランスにも優れます。
家電製品は機種ごとに使用環境が異なり、湿気・結露・温度変化への対応が求められます。用途や部位によって必要特性が異なるため、材料の使い分けが重要です。 量産性やコストを重視する場合はアクリル系、耐湿性・耐久性を求める場合はポリウレタン系、高温部位には耐熱性に優れたシリコーン系が適しています。
屋外設置機器は、雨水・結露・温度サイクルなど厳しい環境条件にさらされます。長期的な絶縁維持と環境変化への追従性が重要となります。 そのため、柔軟性と耐久性のバランスに優れたポリウレタン系防湿コーティングが適しています。
防湿コーティングは、使用環境や製品特性に応じて適切な材料を選定することが重要です。シリコーン系、アクリル系、エポキシ系など、それぞれに明確な特性と適用分野があり、求められる耐熱性・柔軟性・耐湿性・量産性などの条件を総合的に判断する必要があります。
しかし、適切な材料を選定しただけでは、十分な信頼性を確保できるとは限りません。膜厚のばらつき、塗り残し、液剤の飛散、硬化不良など、塗布工程に起因する品質課題が発生すれば、本来の材料性能を十分に発揮できない可能性があります。
防湿コーティングの品質は、材料特性と塗布技術の最適な組み合わせによって実現されます。
次回は、防湿コーティングにおける代表的な塗布工法(スプレー塗布・ディスペンス塗布・選択塗布など)の特徴やメリット・デメリットを整理し、用途に応じた最適な塗布方法の考え方について解説します。材料性能を最大限に引き出すための塗布技術のポイントをご紹介します。